山梨県甲州市の道祖神祭どんど焼き/2022年小正月
山梨県甲州市での2022年の道祖神祭のキッカンジョ、どんど焼きなどの一連の行事は、コロナウイルスの感染拡大のなかで、縮小、中止と集落によって判断が混乱しました。しかし、「伝統を守れ」と規模縮小したものの伝統に従って開催した集落が多かったようです。
道祖神祭のどんど焼きでは住民が作ったオコヤが焚き上げられます。オコヤは青竹、杉、檜の枝、藁などで「道祖神場」に作られた小屋のことをいいます。お小屋作りは、道祖神場に集落の人たちが青竹や丸太を支柱に小屋の枠組みを作り、ヒノキ、杉の枝やわらで屋根や壁を葺くタイプと、道祖神の丸石を安置した土台石の全体をヒノキ、杉の枝で囲うようにした小屋の2タイプがあります。
オコヤとともにオヤマという笹をつけたままの青竹飾りを道祖神場に飾る集落もあります。オヤマは青竹に色紙や色刷りの新聞チラシなどで作ったキンチャクやオコンブクロなどの飾りを吊るします。オコンブクロは「小袋」の意味で子宝に恵まれるよう願いをこめて作ります。
また、オヤナギといって、に色紙を巻いた竹のヒゴを、青竹の上部にくくりつけた円環の中を貫いて垂れ下がるようにした道祖神祭飾りを祀る集落もあります。生命の陰陽の交合を象徴した飾りと考えられ、子宝に恵まれるよう祈願する意味が込められているようです。
下部の写真ライブラリーでは、勝沼町菱山地区の道祖神祭では「道通天地有形外 思入風雲變態中」と漢詩が書かれた幟旗が掲示されていることは、道祖神祭の高い精神性を物語るものとして注目できます。
原文は中国の北宋時代の儒学者である程顥(ていこう)の漢詩「秋日偶成(しゅうじつぐうせい)」の一部です。
この漢詩の意味は「春夏秋冬の趣は、人間の営みと一体となって変化していく。道は天地の間に有形無形を問わず通じている。このように考えるときに風に流れる雲と一体となって悠々たる気分になることができるなど、万物とともに心はゆったりと暮らしを楽しんでいる」という道祖神祭の精神性を表現しています。特に、山梨県の特色である丸石道祖神は、“宇宙の卵”のような神性を帯びた民間信仰なので、その気分が現れているようです。
山梨県甲州市は、甲府盆地の東端にあります。昭和40年代まで養蚕が盛んに行われていましたが、昭和50年代に入ると、一気に果樹栽培へ転換した土地柄です。甲州市の道祖神祭は、集落を単位に行われます。道祖神祭は養蚕と深い結び付きがあり、祭典の名物は繭玉団子を焼いて食べることでした。また、道祖神とともに、養蚕の神さま「蚕影山」を祭る集落も数多くあります。
果樹栽培に転換したいまでも養蚕時代の伝統に従って道祖神祭が執り行われますが、祭典のとなえ言葉は「果実大当たり」「五穀豊穣」などと時代を反映しています。繭玉団子を焼いて「この一年風をひかずに元気で暮らせる、虫歯のならない」と唱えながら、食べる風習は変わりありません。
道祖神祭の門付け予祝行事「キッカンジョ」
甲州市塩山地区で2022年1月7日行われた道祖神祭行事の「キッカンジョ」。子供たちが集落の各家を回り「キッカンジョ、キッカンジョお祝い申せ。家内安全、商売繁盛」など家の職業に合わせた、この一年に福をもたらす祝い言葉を唱えて「道祖神」の札を配る。各戸では子供たちに御祝儀や菓子を渡してねぎらう。キッカンジョとは、“木勧進”の意味で、道祖神祭で使う燃し木や費用を募ることを指している。集められた祝儀金は親分役の中学生の家に子供たちが集まり、分配される。その後はゲームなどをして楽しむことが通例となっている。(写真ライブラリーは甲州市在住のNakamura Masaki様撮影)