来訪神のユネスコ文化遺産登録がはらむ問題点について考察
国連教育科学文化機関(ユネスコ)が2018年11月29日、インド洋のモーリシャスで政府間委員会を開き、日本政府が申請した「来訪神 仮面・仮装の神々」を無形文化遺産に登録することを決めたことについて、考察しています。
デジ研のレポートでは以下の趣旨を分析しております。
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共同通信などによると、国連教育科学文化機関(ユネスコ)は2018年11月29日、インド洋のモーリシャスで政府間委員会を開き、日本政府が申請した「来訪神 仮面・仮装の神々」を無形文化遺産に登録することを決めました。
来訪神は「男鹿のナマハゲ」(秋田県男鹿市)や「能登のアマメハギ」(石川県輪島市・能登町)、「宮古島のパーントゥ」(沖縄県宮古島市)など東北から沖縄まで8県の10の行事。2009年に登録された「甑島(こしきじま)のトシドン」(鹿児島県薩摩川内市)とあわせて拡大させる形で登録されました。
来訪神は、正月や小正月など年の節目にオニの仮面をつけたり仮装したりした人が「神」として家々を訪れる行事。怠け者を戒めたり、幸福や豊穣(ほうじょう)をもたらしたりするとされ、10件はいずれも国の重要無形民俗文化財に指定されています。<BR>
一部の報道によると、来訪神は日本独自の民俗行事とされていますが、これは誤りです。地域資料デジタル化研究会(デジ研)の国際調査によると、欧州各国では、日本と同じ趣旨の新年仮装行事であるクランプス(Krampus)をはじめ鬼などに仮装した来訪神(精霊)行事が広く行われ、ユネスコの無形文化遺産に登録されています。インドネシア・バリ島でも新年にオニが来訪する「オゴオゴ(ogoh-ogoh)」が行われています。
デジ研の調査によれば、世界の来訪神は一つの共有された民俗文化です。ユネスコは、同じ趣旨の世界各地の“来訪神行事”を、地域独自のものとして個別に文化遺産登録しています。これは文化遺産の国際理解を歪め、来訪神をテーマとした国際文化交流の可能性を損ねる恐れがあります。
デジ研の調査によると、日本や欧州の“来訪神”の様相は、どれも角と牙を持ったオニ様の異形で、ふさふさ(シャギー)の毛皮や蓑状の外衣に包まれていることが明らかになりっています。防寒形態の衣装により、どこか北方圏に共通のルーツが存在し、欧州から日本に至る共通の“オニ文化圏”が形成されていることが推測できますが、なぜ角と牙がある異人、獣人または精霊が新年にやってくるのか、実態は謎に包まれたままです。
さらにデジ研の調査によると、日本の来訪神はオニばかりでなく、新年行事で福をもたらす獅子舞や、子どもたちが神や精霊に仮装して福をもたらす「俵引き」、子どもたちが馬の精霊に仮装し、豊作予祝のために舞う「春駒」も同様に来訪神の同じグループに分類できます。オニの来訪神は文化遺産であるが、獅子舞や春駒は文化遺産ではない、という線引きの基準が全く不明です。つまり現在の文化行政は、学術的な探究がなされないまま、文化遺産の判定がなされているようです。
同じことはユネスコにも言えます。ユネスコでは、韓国、ベトナムなどの小正月行事「綱引き」は文化遺産として登録されていますが、全く同じ趣旨の日本の小正月行事である「綱引き」は文化遺産として登録されていません。その矛盾に日本政府も何の疑問も感じていないようです。
さらに指摘するならば、オニの来訪神、獅子舞、春駒も綱引きも、また別途にユネスコ無形文化遺産に登録されている「ちゃっきらこ」(神奈川県)もすべて新年小正月行事のなかで行われている一連の関連行事群です。一つの関連した全体行事をばらして、個別の事象プログラムを文化遺産として登録することにどのような文化的な意味があるのでしょうか?
目の前に現れた奇怪な仮面や衣装の“面白さ”だけを見て、文化遺産の判定をすることは、「群盲象を撫でる」のことわざにもあるように、現代的な文化研究と呼ぶことはできません。その背景にある見えないけれど、確かに存在する本質をどのように究明するかのか。現象主義を排して、地方の民俗文化の背景にある真理を求める分析研究のあり方が、今求められています。デジ研は、「民俗文化研究のパラダイムを転換するときが来ている」と提唱いたします。
デジ研は、ユネスコをはじめ文化遺産登録がはらむ問題点について、さらに調査を継続してまいります。
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