山梨県知事 天野 建殿
山梨県立博物館(仮称)への要望書
平成14年9月17日 特定非営利活動法人地域資料デジタル化研究会 特定非営利活動法人文化資源活用協会
「県民ミュージアムの推進を目指して」−博物館の県民参加とデジタル化と− 文化遺産の保存、継承が地域の大きな課題となっている折から、山梨県が県立博物館建設の取り組みを推進されていることは、まことに時宜を得たものであり、県民としてその実現を大いに期待し、早期の整備を望むものであります。 今21世紀を迎え、博物館建設は自治体の財政状況の悪化や博物館に対する社会的ニーズの変化などもあって、設置の目的、展示方法、運営のあり方、事業活動の評価などのあり方をめぐり、大きな変革の時期を迎えています。そうした21世紀の次世代型博物館のあり方については、既に県当局が公開された基本計画の中にも網羅されており、計画作成に携わった関係者のご尽力に敬意を表するものであります。 このような状況のもとで、私たち特定非営利活動法人地域資料デジタル化研究会、特定非営利活動法人文化資源活用協会は、県民の立場から21世紀の山梨県において必要な博物館はどのようなものであるか、ということを改めて問いかけ、県内を中心にさまざまな分野から関心を持つ人々とともに集い、議論をしてまいりました。 現在、博物館の建設と並行して、IT革命の影響は社会のあらゆる分野に及び、郷土山梨が継承してきたあらゆる知的財産をコンピュータ処理するデジタルアーカイブ技術により、博物館収蔵物に関する情報を劣化無く、永久保存し、かつ国際的にネット公開することが可能になってきました。 国においても、2003年度には行政サービスそのものを電子ネットワークへと移行させる「電子政府・自治体」の推進に関連して、「デジタルミュージアム構想/デジタル・ネットワーク型博物館」実施に向けた取り組みを推進しております。博物館、美術館、図書館等の公共情報文化機関は、そのあり方を「モノ・コト」と「デジタル」を融合させた24時間365日「ノンストップサービス」へと方向性を明確に打ち出しております。 一方で高度情報社会から知識社会へと向かう県民の「生涯学習」への欲求もまた博物館にも「本物の感動体験」と「電子ネットサービス拡充」への期待をより強く求めるものであります。この新たな課題は、行財政改革や、独立行政法人化の動きのなかで対応を求められる博物館にとって、さらに重い負荷を職員に課すものとなります。 こうした急激に変革する時代背景のなかにあって、私たちは、博物館の活動をさらに強め、時代をリードする形として、県民の熱いサポートが支えるミュージアム、「県民ミュージアム」が作られることを望んでおります。 こうした博物館を具現化するため、私たちは、県立博物館整備に関する要望書を提出いたします。
特定非営利活動法人地域資料デジタル化研究会 小林是綱理事長
特定非営利活動法人文化資源活用協会 深沢裕三理事長
山梨県立博物館(仮称)の整備について以下のように要望します。
●博物館の名称を「山梨県民ミュージアム」とし、県民参加を大事にした運営を行う。 ●県民がいつでもどこでも楽しむことができるユビキタスミュージアムの実現 ●新博物館と総合教育センター、生涯学習センター、県立図書館、県立文学館等の既設社会教育施設との連携強化。 <山梨県民ミュージアムについて> 私たちは、今県民が求めている「開かれた博物館のあり方」とは、利用者が博物館の中心にあることだと考えます。その実現のためには、博物館と利用者、博物館と社会をつなげる県民参加型の活動を行う新たな組織形態が必要になっています。その新たな博物館像を「山梨県民ミュージアム」という新しい名称で呼ぶことを提言いたします。 利用者志向の博物館になるには、マーケティング、広報、利用者サービスなどキュレーターとエデュケーター以外にも様々な役割を担う新たな創造力のある人材が必要となってきます。必然的に博物館職員の役割も変化してきています。その一方で、財政難で予算の確保も難しくなりつつあり、いろんな意味で博物館の運営に県民の参加・協力が必要になっています。 「山梨県民ミュージアム」では、博物館の機能が施設公開に留まることなく、さらに利用者が利用者の学習活動を支援するドーセント(※)、博物館の活動を地域社会に延長するアウトリーチなど様々なプログラムによって、地域の人々と博物館とをつなぐセンター機能を果たします。 県民ミュージアムでは、より深い学習を望む利用者が、学芸員のレクチャーを受けながら、自分がやってみたいこと、例えば、体験学習や、歴史研究調査、企画展などに関連して、それぞれグループをつくり、博物館を活動センターとして自主的な活動をするグループへ育っていくことを確信します。学芸員の役割も研究者からプロデューサー、コーディネーターへと進化し、博物館が人材を育成する場ともなっていくことが期待されます。 (※) ドーセント(Docent)とは、ミュージアムの案内や教育指導をする民間協力の学芸員 <ユビキタスミュージアムについて> 県民主体の新しい博物館のあり方について、利用者に真のバリアーフリーを実現する「ユビキタスミュージアム(※)」の構築を要望します。 「ユビキタスミュージアム」は、館内施設のバリアーフリーと同時に、収蔵品に関する様々な情報の利活用について、時間や場所の制約を開放し、「県民のだれもが、いつでも、どこでも」博物館の情報にアクセスできる究極のバリアーフリー型博物館を実現するものです。 ユビキタスミュージアムは、本物とデジタルが融合した総合的なデジタルアーカイブズ構築が、その基盤となります。デジタルアーカイブズの整備には資料のデジタル化から公開まで大量のマンパワーを必要とするので、その整備にあたってはNPOや県民参加等を効果的に活用されるよう要望します。 (※)ユビキタスとは、いたるところに存在する(遍在)という意味。インターネットなどの情報ネットワークに、いつでも、どこからでもアクセスできる環境を指す。 ・1次資料のデジタル保存 博物館が収集するあらゆる有形無形の1次資料について現物保存と同時に、デジタルデータ化の措置を講じます。 デジタル化されたデータ保存により、劣化による文化遺産喪失の問題に対処出来るばかりでなく、出来る限りデジタルでの公開に留意すれば原物の汚損劣化を防止できることになります(保存と公開の両立)。また、貴重な文化遺産は出来る限りCAD(※)データも採取し、物として複製、復刻するために備えるのが望ましいと考えます。 (※) CAD(Computer Aided Design:コンピュータ支援設計の略)とは、コンピュータを利用して機械、家屋などの物の設計を行うシステム。
・ネットワーク公開 博物館が収蔵するあらゆる1次資料について、デジタル化されたものは、情報ネットワークで全面公開し、学習の用に供することとします。 この作業により、従来博物館の展示スペースの制限により実現できなかった全収蔵品の公開が可能となり、施設内でのモノ・コト展示をネットワーク上で補完することができます。さらにデジタルネットワークに対応することにより、24時間365日地球規模のノンストップネットワーク博物館となり、21世紀社会のニーズに対応することが可能となります。デジタル化された1次資料は、目録などの副次資料と連動して、利用者の検索活用の便宜を図るよう整備するよう要望します。 <既設社会教育施設との連携強化> 県立博物館基本計画においては、新博物館と総合教育センターの連携とその他既存の社会教育施設との機能分担について明記しております。しかしながら、県民の立場に立った利用のしやすさの観点に立って、新博物館と総合教育センターのみならず、生涯学習センター、県立図書館、文学館、考古博物館等の社会教育施設とのいっそうの連携境界整備統合により、山梨の生涯学習社会、情報社会の進展を図ることが望まれます。 この社会教育施設の連携強化の推進にあたって、博物館周辺地域の整備をより高次なビジョンをもったものとして後世に引き継ぐため、御坂地域の博物館・教育センター周辺地域を「学習の森」と称して地域整備を推進することを要望いたします。 山梨県では、県立美術館や文学館の立地地域を「芸術の森」と総称しております。西(甲府地区)の「芸術の森」に対して、東(御坂地域)の「学習の森」と対置して、整備を要望するものです。
●博物館とさまざまなNPOなどが連携したオープンな運営組織の構築 ●ハブ博物館をさらに拡大し、わが家の宝物が博物館をつくる「まちかど博物館」の実現 ●デジタルアーカイブによる地域振興の推進 <博物館とさまざまなNPOとが連携したオープンな運営組織の構築> 開かれた博物館の運営にあたって、博物館とNPO、企業、大学など運営協力者が集えるオープンな運営組織を設立することを要望します。 この運営組織は、県立博物館の建設を推進し、県民に開かれた博物館とするべく、行政、県民、企業、大学の「産学官民協働」を確立するためにの組織とします。県民一人ひとりの叡智を結集し、草の根の集大成として、自信と誇りを持って「おらんとうのミュージアム」と呼べる県民ミュージアムにするための、博物館の指導性の上に成り立つ協働のプロデュース集団とします。 さらに、博物館の学芸員とともに県民のスキルアップを図り、県民ディレクター、県民プロデューサならびに地域学習リーダーやコーディネータを養成するための学習プログラムを実施します。 主な活動は以下のようなことが考えられます。 ・学芸員による県民ミュージアム プロデュース集団の育成 ・博物館、学校、社会連携の県民参加プログラムの企画立案、実施 ・博物館評価システムの作成および評価 ・全県下における、県民学習環境の整備事業 ・山梨オープン・ミュージアム(Web版)の構築 <まちかど博物館> 「まちかど博物館」は、県民ミュージアムの活動を地域社会全体にアウトリーチする事業として実現を要望します。 これは県基本計画に示す「ハブ博物館」の構想を具体的に県内全域に拡大し、県民一人ひとりが保存継承している文化遺産「我が家のお宝」「わが社のお宝」を企業や商店の一角、家庭の一部屋を開放して、県民参加により、県民が県民のために公開するミニミニ博物館の仕組みです。 例えば、商店街では、老舗の一角で昔の商売道具であるそろばんや秤、看板などを展示します。鮮魚店では、店先の水槽でその地域の淡水魚を飼育公開するかもしれません。旧農家では、昔の養蚕農具や民具を公開します。 県民ミュージアムは、センター機能として、県内各地のミニミニまちかど博物館の情報を登録し、一般に公開します。このことにより、地域商店街に客を誘致し、新しい地域振興の形が生まれます。 <デジタルアーカイブによる地域振興の推進> 博物館の使命として過去から現在の様々な分野の文化遺産、知的資産を収集、蓄積し、百年単位の広い視野で継承、活用できるようにすることがあげられます。今後の情報化社会の進展の中では、博物館の資産をデジタルアーカイブ化することによって、情報共有、情報活用が進み、歴史と伝統に根ざした文化や産業経済活動の再評価と創造的継承が生まれ、ここから地域振興の新しい可能性が広がります。 このため、博物館開館前のプレ事業として県民による地域文化デジタル化事業に着手することを要望します。 失われつつある文化遺産を、調査、発掘、収集、保存等のすべての作業を博物館スタッフだけで実施するには、人的、予算的、時間的な制約のなかで十分な成果を上げることが困難であると思われます。このため、県民の手で緊急にデジタルで保存継承する県民運動を推進し、収集データは、暫定的にWeb公開として先行します。また、デジタル化について専門的な技術を要するものについては企業や大学の協力により行います。
●博物館展示や事業に対する評価システムの構築をはかり、その評価内容を県民に向けて積極的に情報公開すること これからの開かれた博物館のあり方は、県民との相互理解を深めるということも大事な視点であります。従来のように一方的に展示を見てもらえば終わりということではなく、博物館での利用者と博物館とのコミュニケーション、観客と展示物の間に生まれたつながりなどが注目されています。 こうした観点から博物館展示や事業に対する評価や来館者調査などが行われ、利用者・観客の側から博物館を見つめる視点が重要であると考えられるようになってきました。 一つは、いかに多くの市民に利用されるかという側面であり、二つ目は、博物館の提供できる体験の質をいかに高めるかという側面です。 博物館評価の問題はさまざまな視点が考えられますが、観客にとって展示は最大の注目点です。この部分に、観客が参加する過程を導入するよう要望します。 また、こうした参加の過程の議論は、すべてを情報公開していくことが重要です。情報公開こそが、県民が博物館を「私たちの県民ミュージアム」と意識するための重要な過程であるからです。
(以上)
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