文書や美術品などを、コンピューターで扱えるデジタルの情報で記録して保存する電子博物館が増えている。「デジタルアーカイブ」とも呼ばれている。実際の図書館や、博物館が自前の資料を記録するほか、最近では、地域の歴史や文化の資料を対象に「永久保存」をしようとする動きも目立ってきた。特徴のある電子博物館を紹介する。
道祖神の隣でわら小屋を
作る様子を撮影する「デジ研」のメンバー
地域情報デジタル収集
ネットで気軽に公開も
昭和初期から40年代までの看板の写真が並ぶ「レトロ看板写真館」というホームページがある。街中ではほとんど見られなくなったほうろうやトタン板製の広告看板を、「日用品系」「食品系」など商品の種類で分けて紹介している。
作っているのは、北海道岩見沢市に住む佐藤晃一郎さん(31)。取り付けられた木造の建物と一緒に古い看板がどんどんなくなっていると感じ、7年前、デジタルカメラで写真を撮って残すことにした。道内だけでなく、年に2回は全国に取材旅行に出掛ける。今では750以上の看板が集まった。
フィルムの現像の必要がないデジタルカメラなので、記録にかかる費用は電池代程度。「インターネット上で簡単に公開できるのがデジタル保存のいいところだ」と佐藤さんは話す。
NPO法人「地域資料デジタル化研究会(略称デジ研)」は、地域の文化資料をデジタルで記録して活用するため、99年に創立、昨年NPO法人になった。参加しているのは山梨県に住んでいる人が中心で、図書館員から家庭の主婦まで約40人。行政の手が回らない、埋もれた地域資料を掘り起こそうと、それぞれの空き時間を使って活動している。
石和町に住む、代表の小林是綱(ぜこう)さん(57)自身も、住職の務めをするかたわら、甲州弁で書かれた俳句集をデジタル記録しようと取り組んでいる。「普通の人が普通の生活をする中で、歴史や文化の保存が盛んになれば、学問が変わる。ひいては世界が変わるかもしれない」と語る。
デジ研では、会員だけでなく全国各地の人が記録した地域資料が読めるホームページを企画している。ページの名前は、大きく「日本文庫」と付けた。NPO法人の認可を受けるときに、団体名から「山梨」を外したのも、日本文庫への参加を広く呼びかけるためだ。
ただ、参加には基準を設けている。「デジタルアーカイブ」というからには、バラバラの情報を並べただけではだめで、体系立てて整理がされていなければいけない。プライバシーを侵すものや、モラルに反していたりするものは論外だし、著作権や所有権への配慮がいる。情報に間違いがないかどうか、会員や第三者のチェックも必要だ。
だが、この条件を満たしていれば、扱う情報の細かい内容は問わない。是綱さんは「一定数の読者を想定する出版と違って、少なくてもその情報を見たいと思う人がどこかにいれば意義はある」と考える。
デジ研事務局長の井尻俊之さん(50)は、地域の守り神である道祖神や、その関連行事を記録の対象にして取材を重ねている。
これまで笛吹川沿いにある20の道祖神を撮影し、解説をつけて公開した。正月には、地元の山梨市下井尻地区であった道祖神の「お小屋づくり」の作業をビデオに収めた。道祖神を素材に選んだのは、「各地域の風習を、子どもたちに伝えるため」という。
外からの反響も少なからずあった。東京都のPTAからは「学校の授業で使えるように振り仮名を付けてほしい」と注文があったそうだ。
「琉球文化アーカイブ」というホームページでは、これを見れば沖縄のことが一通り分かるようにと、歴史、自然、伝統芸能、民俗といった項目ごとに、基本的な情報を発信している。
中心になってアーカイブを作っている那覇市の金城秀治さん(49)は「沖縄がこの50年余りの間に経験してきた歴史や、持っている独自の文化について、我々自身が再確認するための作業でもある」と感じている。「自分たちのことを知ってこそ新しい一歩が踏み出せる」と、グローバル化が進む中での「地域の記憶」づくりに力が入っている。